島根県の小さな離島にある、人口2300人の小さな町・海士町が、地方創生のトップランナーとして日本中から注目を集めています。
数々の成功事例を持つ海士町。2023年からは、新たに関係人口の可視化と関係性の深化を目的とした「海士町オフィシャルアンバサダー制度」を試験的にスタートしました。ここで活用されているのが、プレーリーカード。日本中の海士町ファンが、プレーリーカードを使って海士町の魅力を紹介し、さらにファンを増やしていくための仕組みがスタートし、会員数はすでに3桁を超えました。
この仕掛け人となった、町役場の青山達哉さん(還流DX特命官)に、プレーリーカードの活用術を聞きました。
〜この記事はこんな方におすすめ〜
・ファンマーケティング施策を検討している企業の方
・自治体で関係人口・DX・SDGsに取り組んでいる方
- 導入のきっかけ -
- 活用方法 -
- 効果 -
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遠くにいても、島に関わり続けてほしい、という思い
──アンバサダー制度はどんな経緯で誕生したのでしょうか?
青山達哉さん(海士町役場・還流DX特命官)
平成15年頃から海士町では地方創生に向けた取り組みとして、教育魅力化プロジェクト・産業振興に関する取り組みなどにチャレンジしてきており、それによって多くの島内外の方々と交流してきました。こうした中で、島外の方々にも海士町を知っていただき応援していただくようになり、今でも海士町のファンとして応援し続けてくださる方がいらっしゃいます。また近年では、若者向け就労型お試し移住制度「大人の島留学」などの取り組みで年間100〜200人の若者が海士町に集まってくれるようになったんです。
こうした大人の島留学制度を活用して島に滞在してくださっていた方々も、制度終了後にはほとんどの方々は島を離れていかれます。その多くは島を離れた後も、多様な形で海士町に関わってくださっており、まさに若い世代の関係人口を増やす取り組みとして、大事な制度になりつつあるなと感じています。
このように、過去から近年までの様々な取り組みを通じた中で、海士町では「関係人口(=海士町応援団)」と呼ばれる多くの人たちと繋がっているように感じています。
自分自身も海士町にUターンし、まちづくりに関わっていく中で、島を応援してくださっているファンの方々が、島外にいながらも、海士町のまちづくりに継続的に関わっていけるような仕組みを見つけなければならない、と思うようになりました。
遠くにいても、海士町と関わりたいと思ってくれている人たちに、どう島のまちづくりに関わってもらうか。そんな課題意識から誕生したのが、この海士町オフィシャルアンバサダー制度です。
印象に残っているシーンがあって。
関係人口として海士町に定期的に訪れて、海士町のまちづくりの支援をしてくださっている方がいらっしゃるんですが、その方が海士町で出会う方々(住民さんや仕事関係者など)へ挨拶される際に、ご自身の海士町との出会いやこれまでの関わり、現在の関わり方や仕事のことなど、本当に丁寧に伝えてらっしゃったんです。その方はその時にもう7、8年海士町に関わってくださっているんですが、その謙虚さというか地域を大切に思ってくださっているような姿がとても印象的でした。
その姿を見た時に、住んでいる住民の方、住んでいないけどその地域を想い行動しようとしている関係人口の方、海士町のことをこれから知ってくださる方、こうした人たちの出会いがもっと豊かなものになったらいいなと思うようになりました。そのコミュニケーションを、新しい仕組みで解決したいな、と考えていたところ、偶然にもプレーリーカードと出会いました。関係・応援してくれる方々にデジタル名刺を持ってもらって、自己表現、そして海士町の紹介をもっと軽やかにできたらいいんじゃないか、と思いついたことが、コンタクトを取らせていただいたきっかけです。
やりたかったことは「出会いのDX」です。出会いをもっと魅力的に、刺激的に、と考えていました。
口コミが持つ信頼を力に、デジタル名刺でファンを広げる
──具体的に、アンバサダー制度がどんな仕組みになっているのか、より詳しく聞かせてください。
推しのアーティストのファンクラブに入るのと同じ感覚で、海士町に住んではいないけど、応援したい・一緒に海士町を創っていきたいと思った方が、年会費を払って海士町アンバサダーのコミュニティーに参加します。その時に「海士町アンバサダーの会員カード」として発行されるのがプレーリーカードです。
会員になると、会員の方のお名前を印字したプレーリーカードをお届けします。
海士町アンバサダーである米山孝生さんのプレーリーカードとプロフィールページ
プレーリーカードをスマホにかざすと、以下の情報が表示されます。
- アンバサダーの方の簡単な自己紹介情報
- アンバサダーの方が海士町の魅力を簡単に説明できるプレゼンテーション画像
- 特典付きの公式LINE
アンバサダーの方は、ご友人やご家族の方、お仕事で出会った方などにカードをかざしてもらうだけで海士町の魅力を伝えることができます。
米山さんのアンバサダーページ。個性ある町の推しポイントから始まり、海士町の魅力を詰め込んだ紹介画像が展開される
特典の中には海士町のホテルにお得に泊まれる特典や、町長さん直々のガイドツアーなど、海士町らしさを感じられる内容になっています。
4色のアンバサダーカード
──プロフィールページの設計や運営にあたり、工夫している点はありますか?
四季のイベントなどを掲載するなど、最新情報をページで表示し、訴求できるよう定期的に表示情報のアップデートをしています。誰が説明しても、海士町の魅力が伝わる内容を意識しています。
そのほか、アンバサダーの方の個性を出す仕組みとして、お名前や、海士町の好きなところをアンケートし、ページ上に反映させています。
より応援してもらえるような工夫としては、アンバサダーが誰かにプレーリーカードを読み取ってもらった回数や、海士町オフィシャルアンバサダーLINEへの流入の回数で貢献度を可視化することもプレーリーカードfor Busineesの機能でできるので、頑張っていただいた方には、町長から表彰状が授与されるといった貢献度に応じた特典も準備中です。また、アンバサダーの方しか参加できない特別な海士町ファンミーティングイベントなども実施しています。
──アンバサダーの口コミで海士町に興味を持っていただける人が増えていきそうですね!
仮に1000人のアンバサダーがいて、一人当たり1日5人ずつ読み取りをしてくれたとしたら毎日5000人に広がることになりますよね。それが1ヶ月続いたら、単純計算で、海士町の旬の情報をダイレクトにお届けできる人たちは15万人ということになります。
SNS広告にも価値はあると思いますが、これだけ情報が多い現代だからこそ、自分が知っている人からの紹介、つまり口コミは情報への信頼度は高いですよね。「自分はこういう理由で海士町が好きなんだ」というパーソナルな会話の中で伝えてもらったほうが、自然な流入につながりやすい。
アンバサダーから海士町の紹介をされて、プレーリーカードを読み取る人へのメリットとしては、島で使えるクーポンを発券させてもらっています。紹介された人たちが海士町との関わりを持ってアンバサダーになり、地域の経済に還元されるような循環が起きることを期待しています。
カードのデザインが4色に分かれている理由とは?
──4つのカード、それぞれデザインが素敵ですね。
カードは4色で展開しています。印刷されている内容は同じで、裏面は、岩牡蠣、イカなどの名産品、観光地などのモチーフがあしらわれていて、アンバサダー同士のカードを上下で繋げると、円になって、一体感が出るような仕掛けになっています。
カードの裏面のデザイン。「ないものは、ない」の英訳も。
クレジットカードのようにプランを複数ご用意させていただき、グレードをつけることで、次のグレードのためのモチベーションが上がったり、持っている人にとって自慢になってくれたら嬉しいですよね。
年会費を払ってでも「海士町のまちづくりに関わりたい」と思ってくださる方って地域にとって本当に特別な方々なんだと思います。そういった方々こそ、「普段は地域の外にいる応援者」として扱うのではなく、むしろ「海士町のまちづくりを一緒に担っていってくれる当事者たち」として受け止めていってあげることが、その想いに地域として応えていくことなんじゃないかと思っています。
だからこそ、このアンバサダーカードを持っている方が海士町に来てくださった時には、全面的に歓迎したいですし、もっともっと海士町のことを知っていただきながら、関わりを持っていただき、「海士町の沼」にハマっていただきたいですね。(笑)
そのためにも、町内へもこのオフィシャルアンバサダー制度の取り組みや、その価値への理解を拡げていけたらなと思っています。
当然、金額だけでその人の貢献度を図るわけではなく、先ほどもお伝えした紹介者数やLINE流入数、実際に知人の方を連れてきてくださったかなど、網羅的に拝見しています。
貢献度を「見える化」しみんなで盛り上げていく仕組みをつくる
──網羅的に、とありましたが、カードデザイン以外の取り組みの工夫はありますか?
実は海士町オフィシャルアンバサダーの方々しか参加できないデジタルコミュニティがあるのですが、そこで「毎月デジタル名刺を通じて何人の人に海士町の紹介をしてくださっているのか」、その回数のランキングを公開しているんです。
毎月月初めに、前月のプレーリーカード読み取り回数や、その紹介を通じて海士町公式LINEへの流入数(=友達登録者数)などを、ランキング形式デジタルコミュニティを通じて発表しています。
そうすることで自身や他のアンバサダーの方の、アンバサダーとしての活動が把握できるため、貢献意欲や皆んなで盛り上げていこうという仲間意識の向上にも繋がっており、競争や共創が生まれやすくなっているように感じています。
地域への貢献度を経済的指標のみで図るのではなく、何人の方に紹介してくださっているのか、その紹介をきっかけに来島や新規アンバサダーの創出に繋がっていったのかなど、経済的指標以外でも貢献度を可視化していけることが、関係人口の方々とまちづくりに取り組んでいく上で、非常に重要になってくると確信しています。
島の「顧客」「ユーザー」に対してきちんとサービスを設計する
──アンバサダー制度を導入したことによって、その関係人口を可視化し、データで把握できるようになったのは、大きいのではないでしょうか。
そうですね。少子高齢化で地域の過疎化が進む中、関係人口というテーマには多くの自治体が関心を寄せていると思います。
「地域経営は誰のためのものか?」と聞かれたら、多くの人が「住んでいる人のためのもの」と答えるはずです。でも、人口減少社会において「住んでいる人」の数自体はそれぞれの基礎自治体において着実に減ってきているように思いますし、仮に今はまだ人口が減っていなかったとしても、日本全体では人口減少社会に向かっていることは確実ですよね。
また、そもそも「住んでいる人」ってどういう状態の人を指すのか、改めて考える必要があると思います。それは、365日いる人のことなのか、住民票を置いていればいいのか。
全国的な人口減少を回避できない今、僕はそれを現実として受け止めて、そこに「住んでいる・住んでいない」にとらわれない地域経営のあり方を探っていくことも今後の地方創生における重要な取り組みに繋がっていくのではないかとと思っています。人口の数がある意味偏った形で重要視されるような現在の地域経営や地域社会の構造に、デジタルを活用しながら新しい価値をもたらすことができるかどうかが、自治体のDXに求められることではないでしょうか。
海士町はこれまでたくさんの取り組みをしてきましたが、その根底にあるのは「島内外の人との交流を大切にし続ける」という意志だったのかなと個人的には思います。です。そういった姿勢や心意気が、これまで多くの方々に共感や応援を生み出し、ファンを創出することに繋がってきたのかなと考えています。海士町オフィシャルアンバサダー制度は、言うなればその可視化されづらい地域と人、人と人、島内と島外、それぞれの関係性(=関係資本)を「見える化」する仕組みになっていくこととして期待をしています。
頻繁に海士町には来れないけれど、それでも「関わりたい」と思ってくださっている方々が日本全国にたくさんいてくださっていることは自治体として非常にありがたいことだと思っています。
このオフィシャルアンバサダー制度を運営していく上で、「顧客」「ユーザー」となるのは、こうした島の外にいながらも海士町への想いを持ってくださっているファンの方々が中心となります。こうした方々の想いを地域としてしっかりと受け止められるようなサービス設計・運営をしていかなければならない。
民間企業だと顧客目線で事業・サービスを構築していく際には、顧客セグメントに合わせたサービス設定をしていくことになると思いますが、行政が「顧客」「ユーザー」を考えようとする時、どうしても住民のことだけを想起しがちです。しかし、遠く離れた地から応援し支えてくださっている方々がいらっしゃるのも事実だと思います。
こうした地域外にいらっしゃる方々のニーズにも耳を傾けながら、事業を構築・推進していくことも重要なのかなと、思っています。
アンバサダー制度に関しては、まだまだお伝えしていない取り組みがたくさんあるので、今後の発表をぜひ楽しみにしてほしいです。
Photo / Akane Sakaki
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